ネット通販企業に対抗するように、店舗型小売企業が顧客経験価値の提供を意識した店舗づくり、サービス提供を強化している。ネット通販に関しては、合理的な購買意思決定という側面に焦点が当てられがちであるが、ネット通販だからこそ得られる経験もあるだろうと思う。

数年前から、かご落ちという言葉を目にするようになった。ショッピングカートに商品を入れるものの決済には至らないというネット上の購買行動を指す言葉だ。デンマークBaymard Institute社によると平均的なかご落ち率は約70%であるという。その最大の理由は、追加的費用(配送、消費税、手数料)に気づくこと、あるいはその額が大きいと感じることであるようだ。合理的な判断の結果ということなのだろうが、その一方でかご落ちは擬似的な買い物体験の結果でもあることを示唆する研究もある。つまり商品を選ぶプロセスを楽しんでいるのである。

ネット通販企業はこうしたかご落ち理由の見極めと顧客経験価値の提供にも目を向けるべきではないだろうか。

日本ダイレクトマーケティング学会理事
東洋大学経営学部 准教授 大瀬良 伸