全国研究発表大会予稿

ネットワークビジネスにおける
会員のエンゲージメントに影響を与える要因


フォーデイズ株式会社 川本 弥希,熊本 健一,田中 真二,近藤 隆雄

1.背景と目的

企業において自社のサービス品質を正しく評価するためには,顧客が購入した製品に満足し,継続してその製品を購入したり,他人に勧めたりする行動を体系的に把握することが求められる。例えば,小野(2010)は,サービス品質と顧客の満足度の因果関係を体系化し,JCSI(Japanese Customer Satisfaction Index)モデルを定義している。しかし,庄司(2018)は,これらのモデルには顧客の実際の行動について考慮していないという課題があり,エンゲージメントという顧客行動が伴った概念をサービス分野で用いることを推奨している。特に,ダイレクトマーケティングの一つとして考えられる,会員顧客が販売員となり製品をほかの人へ販売して流通ネットワークを広げていくネットワークビジネスでは(小林 1984),従来の顧客満足度評価モデルの概念では企業が提供するサービス品質を正確に捉えることができない可能性がある。その理由の一つとして,一部の顧客は販売員としての役割を担うために顧客心理が複雑となり,特別な要因が会員顧客の心理と行動の変化に影響を与えている可能性がある。

そこで,本研究ではネットワークビジネス会員のエンゲージメントの形成に影響を与える要因を顧客経験の観点から捉えて,会員のエンゲージメントに影響を与える要因を体系的に把握する方法を明らかにすることを目的とする。仮説として,以下の3つを考えた。仮説1:会員エンゲージメントの評価項目として,セミナーへの参加やコミュニティ活動の積極性が影響を与える。仮説2:会員エンゲージメントの形成には,会員活動の満足度が影響を与える。仮説3:会員のエンゲージメントの形成には,会員になった理由と保有タイトル(販売実績によって決まる会員資格)が影響を与える。図1に本研究の仮説モデルを示す。

2.方法

2.1.調査対象と時期

調査は会員数が約25万人の健康食品・化粧品を販売するネットワークビジネス大手のA社の会員を対象に行った。2019年11月にランダムに抽出した約2500名の会員を対象にオンラインによるアンケート調査を実施した。

2.2.調査内容

図1の仮説モデルに基づき,以下の質問項目を作成した。

(1)会員エンゲージメント:会員の購買のエンゲージメントを把握するために,毎月購入している製品(登録コース)を尋ねた。登録コースは5つあり,複数コースの登録が可能であった。また,コミュニティへの参加,A社の企画するイベントやセミナーへの参加,A社の製品を他者へ推奨する頻度をそれぞれ尋ねた。評価尺度は,積極的でない,あまり積極的でない,普通,まあまあ積極的,積極的の5件法であった。

(2)満足度要因:満足度の評価尺度は一般的な製品に関する満足度とサービスに関する満足度の2つに加えて,会員活動に関する満足度を尋ねた。

(3)ロイヤルティ:ロイヤルティの評価尺度は,A社の製品を他の人にも勧めたいと思うか,今後も継続して製品を購入したいと思うかを尋ねた。また,満足度要因とロイヤルティの評価尺度はどちらも,全然思わない,思わない,あまり思わない,わからない,やや思う,そう思う,非常にそう思う,の7件法であった。

(4)会員属性:会員の属性として一般的な年代,会員歴の2つに加えて,A社の会員になった理由(ビジネス目的,製品利用目的,ビジネス・製品利用の両方)と現在の保有タイトル(ディレクター,リーダー,なし)を尋ねた。

2.3.分析方法

会員エンゲージメントと満足度要因,ロイヤルティ,会員属性のそれぞれの要因との関係を調べるためにアンケートの調査結果を用いて相関分析を行った。次に,仮説モデル(図1)において,会員エンゲージメントに相対的に影響を与える要因を抽出するために重回帰分析を行った。目的変数を会員エンゲージメント,説明変数を製品満足度,サービス満足度,会員活動満足度,他者推奨意向,会員継続意向,年代,会員歴とした。さらに,会員理由,保有タイトルをダミー変数に設定した。

3.結果と考察

アンケート調査の結果,194名の回答があり有効回答数は159名であった。記述統計量より,エンゲージメントの尺度の信頼性(クロンバックα)は65%であった(表1)。よって,会員エンゲージメントを形成する4つの評価要因の因子構成はそれほど強いものではなく,特にコース登録数は他の3つの因子とは別の因子構成を持つと考えられる。今後の改善が望まれるであろう。

次に相関分析の結果より,エンゲージメントに影響を与える要因として,「年代」以外の要因すべてで有意に正の相関が確認された(表1)。つまり,仮説モデルで示したほぼすべての要因がエンゲージメントの形成に関係していることが示唆された。

次に,重回帰分析の結果より,会員活動の満足度,会員継続意向,ビジネス目的,保有タイトルがエンゲージメントの向上に有意に正の影響を与えていた(表2)。つまり,製品やサービスの満足度よりも,会員活動の満足度がよりエンゲージメントの向上に影響を与えており,会員活動の中での良い経験をすることが重要であると推察される。また,収入を得るというビジネス意識の高さがエンゲージメントに影響を与えており,一般の顧客消費者とは異なる意識の存在・影響があると考えられる。また,保有タイトルが高い会員は責任感や忠誠心などからエンゲージメントが高くなる傾向があったと考えられる。

以上より,仮説モデルで示したような,他の顧客ビジネスとは異なるエンゲージメントの概念がネットワークビジネスには存在することが示唆された。これらを考慮することがより正確なサービス品質評価と改善の実現につながると考えられる。

参考文献

  1. 小野 譲司 (2010). JCSIによる顧客満足モデルの構築. マーケティングジャーナル. 30(1), 20-34.
  2. 庄司 真人 (2018). 顧客エンゲージメントの理論的貢献に関する考察:価値共創の視点から. 112, 91-104.
  3. 小林忠嗣 (1984). マルチ・レベル・マーケティング (MLM):新時代の販売システム. ダイヤモンド社, 東京.