全国研究発表大会予稿

地域特産品のチャネル開発
―ネット通販拡大の課題―

神戸大学大学院経営学研究科  黄 磷
北海商科大学商学部            橋元 理恵

1. 研究目的

本研究では、地域特産品の生産者や販売者が、実際にネット通販というチャネルを利用して販売拡大を実現するために乗り越えなければならないボトルネックを明らかにするとともにその課題解決について分析し、地域特産品のネット通販活用の道筋を探りたい。

地域創生が叫ばれて久しい。地域創生とは、各地域がそれぞれの特徴を活かした自律的で持続的な社会を創生することを目指すことである。将来にわたって「活力ある地域社会」を実現するための柱となる方策のひとつは、地域の外から稼ぐ力を高めるとともに地域内経済循環を実現することである[1]。地域各地にそれぞれの特産品があり、地域内で生産され、消費されている。このような地域特産品は地域の特性や特徴を凝集した地域資源であり、地域外の人にとっては貴重な価値を持つものであるため、まさに地域の外から稼ぐ力を潜在的にもつ地域創生の重要な要素である。

インターネット技術を活用した取引方法であるEコマースのさまざまなメリットが謳われているが、地域特産品の生産や販売に関わる多くの中小企業がインターネットのメリットを活かせず、現状ではネット販売の拡大を実現できていない(公正取引委員会 2019、日経MJ 2019、経済産業省 2020)。

[1] 内閣官房・内閣府(2020)『まち・ひと・しごと創生基本方針2020』、「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン(令和元年改訂版)及び第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」(概要)」( https://www.kantei.go.jp/jp/singi/sousei/mahishi_index.html )。

2.研究方法

消費者が地域特産品に触れる場は、観光で地域を訪問した時、お土産で地域特産品をもらった時、地域のアンテナショップや百貨店・スーパーマーケットの催事で見た時、ネット通販を通じて等である。このように地域特産品にはさまざまな販売チャネルが展開されている。一方で、地域特産品の生産者や販売者にとって、チャネル開発は地域特産品が全国的な地域ブランド品になるか、地域限定品でとどまるかを左右する重要な鍵を握っている。

商品がブランド化に至る道筋は不認知→認知→理解→試買→常用というプロセスを辿る(田村 2011、コトラー 2017)。地域特産品のブランディングにとっても、消費者にいかにその商品を認知し、理解してもらい、購買や常用に結び付ける道筋を作ることが重要である。

EC市場の拡大に伴って、ネット通販は商品を告知し販売する重要なツールとなっている。しかしながら、ネット通販を自ら開設することは、インターネットでの商品ページのデザイン・作成、決済方法の決定、配送システムの決定等は、未経験者の中小企業にとってハードルは高い。楽天市場やamazon等の共同サイトの活用はネット通販の技術的な負担は少ないが、コストがかかる(橋元 2017)。業務を外部委託して経費をかける状況では、EC関連サービスを提供する企業こそ潤うが、販売者の利益率の最大化ができないことになっている。

インターネットのメリットを活用するためには、ECサイト制作、ネット出店、物流や決済などにかかわる業務のほか、地域ブランドづくりにかかわる中小企業の組織内部と地域内でのさまざまな課題を解決する必要がある(黄 2017)。したがって、ネット通販は全国の消費者に商品を告知し販売の機会を与える便利なツールであるが、地域特産品の生産者や販売者にとっては、それほどハードルの低いチャネルではない。

そこで、本研究では、地域特産品を生産し、ネット通販を通じて販売している事業者に対して、①地域特産品の商品開発の経緯、②販売チャネルの展開と現状 ②ネット通販を実施するうえでのボトルネックのことがら ③ボトルネックの解消方法などについて聞き取り調査を行った。

3.調査結果

ここでは、地域の原材料や素材、地場産業や地域イメージなどを活かした特徴のある商品を開発し、特産品として一定のブランド力を築いた北海道内の事業者で、従来の販売チャネルに加えてネット販売を始めた企業へのヒアリング調査の結果について報告する。

1)多くの地域においては、地域の特徴を活かした特産品を商品化し、販売チャネルを開発して事業を持続できるようになるまでは、さまざまな出来事が積み重なった歴史がある。また、特産品を販売する事業者は地域社会と地域資源のネットワークのなかに深く埋め込まれた存在になっている。聞き取り調査の結果、地域特産品の商品化プロセス、既存の販売チャネル、地域内の顧客や行政との関係などは、ネット通販の開設とその後の展開に大きな影響を与えている。

2)ネット通販には、自社サイトのデザイン・作成と運営・メンテナンス、受発注、決済、発送や在庫管理などの一連の業務が伴う。これらの業務を外部委託するためのコストがしばしばチャネル開発のボトルネックになっている。外部委託できないような初期投資や限られた経営資源の中から運用できる人材の確保などは、地域特産品を生産販売する中小企業にとって、より重要な課題になっている。

3)地域特産品のネット通販は、商圏を地域外に拡大させ、新しい購入層を広げることができる。ネット通販というチャネルの利用は、地域内での販売や既存のチャネルに大きな影響を与える。全体的な売上を拡大させるためには、ネット販売と既存チャネルでの販売との間に起こる齟齬やコンフリクトを解消させ、複数の販売チャネルを統合させるという課題も乗り越えなければならない。

主要参考文献

経済産業省 商務情報政策局 情報経済課(2020)『内外一体の経済成長戦略構築にかかる 国際経済調査事業 (電子商取引に関する市場調査)』。
公正取引委員会(2019)『消費者向けeコマースの取引実態に関する調査報告書』。
黄 磷(2017)『地方創生の戦略と新たな方向性』(地方創生カレッジ講座046)、現代経営学研究所(神戸大学)。
田村 正紀(2011)『ブランドの誕生』千倉書房。
橋元 理恵(2017)「地域特産品のインターネット通販に関する一考察-観光庁「究極のお土産」を例として-」Direct Marketing Review vol.16,65-82。
フィリップ・コトラー他(2017)『コトラーのマーケティング4.0 スマートフォン時代の究極法則』 恩藏直人 (監修), 藤井清美 (翻訳)、朝日新聞出版。