通信販売のトラブルと事業者の対応 ~なりすまし、未成年者、認知症等判断能力に問題がある可能性のある者との取引 ~

<発表者>
発表者 箕輪法律事務所 弁護士 土肥 衆

・概要

通信販売においては、インターネット、電話やはがき等を利用した非対面の方法により取引が行われるため、対面による取引とは異なる問題が生じる可能性があります。

今回の法務研究部会では、「なりすまし」、「未成年者」、及び「認知症を患っていること等を理由に判断能力に課題を抱える者」との取引において、想定されるトラブル事例を用いて、事業者の対応を検討することとなりました。
とりわけ通信販売においては、事業者からは、注文の段階で、注文者の属性等は不明であることが通常であり、商品の発送後や役務提供後になって、本人や関係者からクレームを受けたり、場合によっては本人やその代理人等から取引の有効性を争われたりすることとなるため、事業者としては、注文を受ける段階で、可能な限り、トラブルを防止するためのシステムを構築するか、社内でのルールを定めておく等する必要があります。

事業者としては、抽象的には、「取引の性質上、注文が取消しや無効の対象となることが相当程度予想される場合や、取引の対象や金額等から取消しや無効によるリスクが高いと考えられる場合等においては、そのリスク及び事後的な紛争を回避することをシステムの構築に要するコスト等も考慮のうえ検討する必要がある」などと指摘しました。
「なりすまし」及び「未成年者」との取引上の問題点については、経済産業省が公表している「電子商取引及び情報材取引等に関する準則(令和元年12月)」に詳細な記載があるため、その該当箇所を参照していただければと思います。
「認知症等を理由に判断能力に課題を抱える者」との取引上の留意点については、制限行為能力者制度、同制度上の取消し、意思無能力無効や取消し及び無効の範囲等の民法上の議論に触れたほか、成年後見人は個人情報保護法上も本人の代理人と考えられていること等に触れて、個人情報保護法上生じる可能性のある問題についても若干の指摘をしました。

もっとも、本人と関係者間で注文に関する意見に相違がある場合等、通信販売におけるトラブルは、実務上、法律論だけでは対応できないことも多いと思われますので、事業者としては、原則論を踏まえた上で、トラブルや紛争を事前に回避するルールを定めたり、システムを構築すること等が必要となります。