不実証広告対策における“失敗の本質” -根拠資料はなぜ認められないのか?-

<発表者>
矢野 誠二氏(広告リスク研究所)

・概要

不実証広告の疑いをかけられ、行政の求めに応じて提出する広告表示の根拠資料はなかなか認められず、不当表示として処分されてしまうことが多い。これらの資料には、商品ジャンルや訴求事項を問わず共通している、いわゆる“失敗の本質”ともいえる以下のような問題点が認められる。

1.根拠資料の用途を認識していない
行政は「処分が必要となる可能性が高い」と判断して根拠資料提出時を求めている状況であり、記載事項の不備や論理矛盾は、確認不足との判断につながる。にもかかわらず、通販事業者・納入業者間で共通の認識ができればよいという、販売商品決定のための資料という認識しかない。
よくある根拠資料の問題点として、以下のような課題が挙げられる。
① 広告表現と対応した“目的”“結論”の記載なし。(第三者機関の試験成績書のみ)⇒広告表現の責任は通販事業者に。
② 再現試験可能な“試験方法”の記述無し⇒試験内容も分からないのに“確認した”とは主張できない。
③ 医師や大学教員等の監修⇒景表法の知識が欠如した専門家が無責任に関与する例も。
④ 取引先の協力不足。⇒意識面、スキル面の両方で問題が認められるケースが多い。地道に働きかけて改善を図らなければ、景表法リスクはなくならない。
⑤ 資料はあっても、自社でチェックした記録が保存されていない。及び、チェック手順がルール化されていない。

2.無頓着な評価指標の設定
計測器の測定値に有意な差があっても、広告で訴求した商品の効果を消費者が“実感”できなければ不当表示と見做される可能性もある‼そもそも、“実感”できないような差を検証することは難しい。
にもかかわらず、広告表現のアイデアだけが先行する形で、なんとなく裏付けとなりそうな試験項目を選んで試験を行い、試験項目に関する知識が乏しいため、試験の不備に気づかないまま“根拠資料”として扱ってしまっている。

3.評価スキル不足
試験デザインの基本や測定対象事象・計測手法等に関する理解不足のため、試験方法が適切さを欠いてしまう。また。これらの理解不足が、試験方法等に関する必須記載事項の不記載につながってしまう。試験に問題があった場合はもとより、試験自体は適切であっても、その内容が読み取れない試験報告書では、根拠の科学的合理性を確認した記録としての正当性を喪失している。